ストラディヴァリウス
2009.07.30 22:37 credenzaの本棚
というわけで、新カテゴリ、「credenzaの本棚」シリーズ(笑)、第一弾はやっぱりこれ。横山進一著『ストラディヴァリウス』です。
あまたあるストラディヴァリウスを扱った本の中で、これを推す理由は・・・何よりお手軽だからです(笑)。この本、出たばかりですが何しろ新書版なのでお財布にとてもやさしいのみならず、写真も大変美しい(著者の本業は写真家なのである意味当たり前)ので、お読みでない方は是非。
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ストラディヴァリウスは美しい。もちろん楽器なのだからその音色がすばらしいのは言うまでもないが、その姿かたちが美しい。
この本、横山進一著 『ストラディヴァリウス (アスキー新書 82)』はそんなストラディヴァリウスの美しさの虜になった著者によるヴァイオリン礼賛である。
著者とストラディヴァリウスの出会いは一風変わっている。そもそも著者はヴァイオリニストではなく、カメラマンなのだ。カメラマンが被写体にほれ込むことはままあることだろう。しかし、著者は初めて撮影対象として出会ったイタリア製の古い楽器にほれ込むこととなる。演奏家でもなかったカメラマンを捕らえ、とうとう自らヴァイオリンを製作する様になるまで著者を惹きつけたのは何か。
それはその優美な姿かたちであり、また、3世紀の時をへて、撮影の光の中で輝くニスの艶と輝きだったという。その一枚が著者の人生を大きく変えることとなった。
アントニオ・ストラディヴァリ。17世紀後半クレモナに生まれたヴァイオリン製作者の名前は、その名の付いたヴァイオリンとともに忘れられることはない。彼の名前の短縮形Stradはもはや弦楽器を指す一般名詞に近い。
現存するストラディヴァリウスは約600本という。そのうちヴァイオリンは約520本。当時として長生きしたストラディヴァリは生涯に何本の楽器を製作したのか、息子たちとの分業で作られたものも多いだろうし、いまではもうわからない。が、多くても現存するものの倍ぐらいではないか。
いずれにしても3世紀を経て半数以上が残っていることは、名器として鄭重に扱われてきてとはいえ、奇跡に近い。実際、この本の中では多くのヴァイオリンがたどった数奇な運命や事故などのエピソードも多く語られている。
600本のうち、著者は約半数を目にし、その音色を聴いたという。これは役得を通り越してもはや著者の執念といえるだろう。
この本のすばらしいところは、ストラディヴァリを中心に、ヴァイオリンの三大名器といわれる、アマティ、ガルネリ(デル・ジェス)についても説明が加えられており、このコンパクトな一冊で一通り「クレモナのヴァイオリン作り」について学べるところである。
また、巻末には歴代名ヴァイオリニストの所有したストラディヴァリについての説明と現在、日本人演奏家が弾いているストラディヴァリにつていの解説があり、CDやSPレコード(笑)を聴く際に重宝する。
この本を読めば、ヴァイオリンが聴きたくなり、さらには弾きたくなり、そして著者のようにヴァイオリン、特にストラディヴァリと恋に落ちる・・・かも知れない。
ついでに、内容が古いだの偏っているだの、いろいろ言われてはいるが、歴史的ヴァイオリニストの演奏スタイルや録音について包括的に知るには、やはり定番のヨアヒム・ハルトナック著『二十世紀の名ヴァイオリニスト』をお薦めとして挙げておこう。
日本では「レコード(やCD)では演奏の本質は伝わらない」などと判ったようなことを言っている評論家による書物も多いが、そもそも音楽評論など、何はともあれ音を聴かなければ始まらないことを考えると、たとえいい加減な録音でもサラサーテやヨアヒムの演奏が聴けるだけでもありがたいことだ。そのあたりもハルトナック大先生は、きちんとわきまえているのである(笑)。
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