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作曲家の意図はどこまで再現できるのか

2009.11.23 20:04  credenzaの本棚

この間読んだ本(内藤彰著 『クラシック音楽:未来のための演奏論』)の中で、「20世紀に入ってビブラート奏法が一般的になり、オーケストラの響きが悪くなった、云々」とありました。この本、基本的に「超原典主義」をとる指揮者が著者なので、それはいいのですが、ことこのくだりについてはちょっと変な感じがしました。

クラシック音楽 未来のための演奏論
クラシック音楽 未来のための演奏論
(2009/01) 内藤 彰




 ビブラートのところは、「ビブラートは音程を上下に細かく揺らす。だから弦楽器の音も互いに共鳴することがなくなってしまい、豊かな響きが失われてしまう」と言った感じの論旨ですから、オケの指揮者にしてはナイーブな議論といえるでしょう。

 一言で言ってしまうと、ビブラートがかかると響きがにごると言うなら、自分のオケなんだし、弓をそろえるのと同じようにビブラートもそろえればいいだけです。この際、それが出来ないのならプロ失格、と言い切ってしまいましょう(笑)。

 だって、ビブラートで音がにごるからビブラートをやめるというのは、極端な言い方をすれば、「マッチを売ると火事が増えるから、マッチを使うのをやめましょう。」、と言っているのと同じです。正しい方向はマッチを使っても火事が増えないように何とかしましょう、であるべきです。

 確かに、19世紀に活躍したヴァイオリニストの古いレコードを聴くと、昔の演奏家はほとんどビブラートを使っておらず、かけられたとしてもごくごくわずかなです。今のようにほとんどの音にビブラートをかける様になったのは、クライスラーあたりが最初です。そのあたりから演奏方法が大きく変わってきて、現在ではノンビブラート奏法の方が珍しくなっています。

 この背景にはいろいろ理由があるようですが、この本の筆者は先ほど書いた通り、ビブラートをかけると音程が一定でなくなるので、弦楽器本来の共鳴の美しさが損なわれるとして、「十把一絡げ奏法」として現在のオーケストラの響きはかつて作曲家が想定していた音とは違う、したがって駄目だ、と主張します。

 もともとこの著者の主張は「音楽は作曲されたときの演奏法で演奏すべき。」というもの。その観点からプッチーニの蝶々夫人にでてくる鐘の音や第九のテンポについてあれこれ考証し、それはそこそこおもしろいのですけど、何が何でもピリオド奏法による演奏が本来の姿であって、それ以外は邪道である、というかなりストイックなスタンスは行き過ぎのような気がします。

 先ほどのビブラートの話も、当然この奏法が一般的になっている現代の作曲家の作品ではどうするのでしょうか?端的にいえば、彼のオケではベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は絶対クライスラー作のカデンツァは弾けなくなってしまいますし、エルガーの愛の挨拶だってノンビブラートです。つまんないの(笑)。

 確かに作曲家が意図した音楽は、実際に当時演奏されていたスタイルがベースになっていた筈ですから、その音のイメージは大切にすべきでしょう。

 でもたとえばワーグナーの楽劇でビブラートをかけずに弦楽器が演奏していたら、確かに新鮮な響きにはなるかもしれないけれど、あのワーグナーの世界を特徴づけるもやもや、どろどろとした雰囲気が無くなってしまい、どうにもつまらなくなると思うのですけどどうでしょうか。

 ちなみに筆者のような立場からは、たとえばあのフルトヴェングラーの第九なんて、改訂されたスコアなんか全く考慮に入っている訳が無いのですから、取るに足らない演奏となる(!)わけですが、とてもそんな単純ではないと思います。

 結局のところ、音楽は出てきた音がすべてなので、極端な話、ベートーヴェンがそれを意図していようとそうでは無かろうと、人を感動させうる演奏が出来るかどうかがすべてではないかと思うのです。仮にその奏法が作曲時に使われていなくともそれは結果として些細な問題ではないでしょうか。

 もっとも、解釈を進めるあまり、ほとんど編曲してしまうのは問題かもしれません。

 たとえば、メンゲルベルグなどは勝手に楽譜を改訂して本来はないティンパニを付け加わえたりしていたり、また、ストコフスキーの演奏などは楽譜の指定を無視して音色を色づけて「フィラデルフィアサウンド」を作り出していますし、先ほどのフルトヴェングラーだってテンポはめちゃくちゃです。

 でもこれらの演奏が作曲家が想定していなかったような音楽であり、インチキであるといいきれるのか。私はこの著者の振った演奏を聴いたことがありませんが、はっきり言ってしまうと著者が斬って捨てている往年の名指揮者の演奏を超える演奏が出来るとは到底思えないのです。

 そのうえ、作曲家の本来の意図を完全に解明することは仮に作曲家本人が生きていたとしても不可能である(だから大学入試の「現代国語」のように筆者が考えてもいない筆者の意図を問う問題が毎年出題されるのです。)以上、この著者の様なスタンスをとれば、いずれ新たな発見がある毎にそれまでの演奏は全否定されるわけで、まあ結果として同じ穴の狢といえばそれまでです。

 だったら、もう少し謙虚になっても良さそうなものですが如何でしょうか。ピリオド演奏が駄目だ、というのではありませんが、それが唯一正しくて他が駄目だ、というのは逆にピリオド演奏自体をつまらなくしている最大の理由だとおもいます。そして事実、大概のピリオド楽器による演奏が、ただ昔のやり方(楽器等)で弾いてみた以上にならないのは、まだにここにあるような気がします。

 そうそうビブラート。作曲されたときにビブラートをかけることが想定されていなかったから、かけてはいけない、などという理屈はあまりに偏屈です。楽器本体が時代とともに改良されていったのと同じように奏法も時とともに表現の幅が広がってしかるべきだと思うのですがどうでしょうか。

 もっとも、自分でヴァイオリンを弾いていると、まだビブラートはおろか音程もおぼつかないことが多いので、編曲どころか作曲してしまうことも多いのですけど・・・それはまあ、別の(もっと深刻な根本的)問題であるわけです(笑)。
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この記事へのコメント

古楽や現代音楽は誤解される事が多く、どちらも大好きな僕は、以前はそういった偏見に溢れた文章を読む度、顔を真っ赤にして激怒しておりました。
でも、最近はそういうのを読んでも、「頑固ジジイがまた説教してるな」くらいにしか思わなくなりましたね。

この本は読んだ事がないので、著者の見解についてはなんとも言えないですが、古楽に関しては、アーノンクールや鈴木秀美の著作が、客観的で面白かったかな。

原典至上主義も一つのアプローチとしては面白いですけど、作曲した直後から編曲を強制させられていたモーツァルトの作品とかは、どうするべきなんでしょうかね。

che | URL | 2009.11.23 23:49

Re: タイトルなし

cheさん
こんばんは

> でも、最近はそういうのを読んでも、「頑固ジジイがまた説教してるな」くらいにしか思わなくなりましたね。

まあ、その通りですね。「頑固ジジイ」はともかくとてして、こういうのは無視してればいいのですけど、ブログのネタが最近ない(笑)のと、あまりにおかしかったので。

> この本は読んだ事がないので、著者の見解についてはなんとも言えないですが、古楽に関しては、アーノンクールや鈴木秀美の著作が、客観的で面白かったかな。

 鈴木秀美の方は読んだことありませんが、アーノンクールは確かに面白かったです。でもチューリッヒで見たオペラ、つまんなかったです。

 この本、他のところも結構??ですけど、面白いことは面白いですよ。

> 原典至上主義も一つのアプローチとしては面白いですけど、作曲した直後から編曲を強制させられていたモーツァルトの作品とかは、どうするべきなんでしょうかね。

 多分モーツアルトはどのようにいじられても大丈夫だと思いますよ。それだけ音楽そのものの強さがありと思います。

 原典至上主義、ことばは綺麗ですけど、ブルックナーなどでも原典版ってつまんなかったりしますから、一長一短ですね。

credenza | URL | 2009.11.24 00:16

クラッシック、ド素人なのですが・・・

たまたま前に読んだ本だか、見たテレビで、
どこかの国の有名なオーケストラでは、
ビブラートまで、音程を合わせていると
聞いた(読んだ?)ことがあります。

それを知って、
オーケストラとはそういうものだ(超ハイレベル!)
と思っていたのですが、
どうもそうではないようですね?(笑)

ありるま | URL | 2009.11.24 21:50 | 編集

Re: タイトルなし

ありるまさん

> たまたま前に読んだ本だか、見たテレビで、
> どこかの国の有名なオーケストラでは、
> ビブラートまで、音程を合わせていると
> 聞いた(読んだ?)ことがあります。

ををを、やっぱそうですよね。そこまでやらないと・・・

> それを知って、
> オーケストラとはそういうものだ(超ハイレベル!)
> と思っていたのですが、
> どうもそうではないようですね?(笑)

ここまでできるのは本当に一握りだと思いますよ。

そうでなくても、一流のホールでちゃんとしたオケを聞くと綺麗に倍音が響いています。

credenza | URL | 2009.11.24 23:34

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